里見へ

この手紙をもって,僕のプログラマとしての最後の仕事とする.
まず,僕のバグを解明するために,大河内教授に病理解剖をお願いしたい.以下に,バグ治療についての愚見を述べる.バグの根治を考える際,第一選択はあくまでテストであるという考えは今も変わりはない.しかしながら,現実には僕の場合がそうであるように,本番稼働して発覚するテストケースがしばしば見受けられる.抜本的な対策としては形式仕様記述を含むプログラム検証論が必要となるが,残念ながら未だ満足のいく成果には至っていない.これからのバグ治療の飛躍はテスト以外の治療法の発展にかかっている.
僕は,君がその一翼を担える数少ないプログラマであると信じている.能力を持ったものには,それを正しく行使する責務がある.君にはバグ治療の発展に挑んでもらいたい.遠くない未来に,バグによるトラブルがこの世からなくなることを信じている.ひいては僕のバグを病理解剖の後,君の研究材料の一石として役立てて欲しい.
バグは生ける師なり.
なお,自らソフトウェア開発の第一線にあるものがバグを早期発見できず,本番でトラブルを引き起こしたことを心より恥じる
財前五郎